有り難きこと(大城戸副会長)

 

 

    愛媛県経営者協会副会長 大城戸 圭一

  

    (愛媛トヨタ自動車株式会社 代表取締役社長)

 

 

 10年ほど前に、「『ありがとう』の反対語知ってますか?」と問われて、私は即答できなかったことを思い出します。
 ご存知の方は多いと思いますが、「ありがとう」の反対語は「当たり前」だと教えられました。「有ることが難しいこと」に直面するから有り難い、「ありがとう」が言えるのだと。
 豊かさと平和の中で現在の日本は、生活における当たり前のレベルが変わって来ています。その上第四次産業革命の真っただ中にあり、生活の利便性は加速度的に進化しています。
 そして今、新型ウィルスのパンデミックにより当たり前で無くなったことが増えました。

 正岡子規が「歌よみに与ふる書」の中で絶賛した幕末の歌人に橘曙覧という福井の人がいます。この人物のことを知ったのは、バブル経済真っ只中の頃でした。当時は車の販売も高額車から売れるという時代でした。
 橘曙覧は28歳で弟に家督を譲り、世を離れた赤貧の歌人でした。「独楽吟」という歌集の中で、日常の些細なことの中に楽しみを見つけ、幸せだとおおらかに歌っています。
 「たのしみは 妻子むつまじく うちつどい 頭ならべて ものくふ時」
 「たのしみは 朝おきいでて 昨日まで 無かりし花の 咲ける見る時」
 昨年から続くコロナ禍は、三密を避けたテレワークの推奨やオンライン活用で働き方を変えました。新常態での働き方が当たり前となった時、現在の有り難さに気づくのか。私はこの大きな犠牲を払っているコロナ禍が、有り難さやふと感じる幸せに気づくきっかけであって欲しいと思います。